あーとこみにてぃー@藤岡宣麗

マルチクリエイターの藤岡宣麗による作品発表です。皆様に楽しんでいただけるような投稿にしていきたいと思ってます。

bungaku museum 1 桜井亜美1

桜井亜美「FIREFLY(ファイアフライ)」

 

FIREFLY (幻冬舎文庫)

FIREFLY (幻冬舎文庫)

 

 

 自らの手により実母を包丁で殺害したユリアという女子中学生の居所探しを描いている。だが、彼女のたどる道は非常に安易なものではなく、彼女自身の立場をさらに破滅へと追い込んでいくものである。にもかかわらず、彼女はあえて、破滅の道を自らの感情論によって選んでしまった。故に、かつての友人から疎まれるようになり、社会の眼という「大きな恐怖」が彼女を社会追放へと追いやってしまう。偶然に出会ったタケという男、彼は「出会いパーティー」と称する結婚詐欺師であるが、やがて互いの持つ「負」を抽象的に語り合うことにより、互いに理解から信頼へと変わっていく。出会いパーティーという架空の世界において、彼女自身は自らにおける心のより所を探し、作り上げて行くが、結局は彼女自身の心を同時に蝕むものであり、彼女の中にあらわれる「死神」が、彼女の逃避行を許すわけがなかった。ここに描かれる「死神」という存在は、社会の眼により生まれたものなのか、彼女の手により殺された母親の怨念なのか、彼女自身でしか感じえないものである。もしかしたら、彼女によって押し殺していたはずの良心が「死神」として現れたのであろうかともたとえても問題はない。彼女を完全たる奈落の底へと落とすことにおいては「死神」のもつ断片的な意味としては人間の持つ主観的な所は通じるが、ここに描かれてるものは、良心的な部分を含んでいる。始めはうまく装って創り上げていたはずの立場がやがて崩壊してしまうが、命がけで手にした彼女は「人のぬくもり」というものにたどり着く。冒険の終わりはすべてがハッピーエンドとは限らない。同時に、彼女の見つけた「人のぬくもり」がギロチンでもあった。「ぬくもり」は彼女の宿命を誘っていたのであろうか。あるいは、彼女は自ら選んだのか、彼女のみが知るものである。

 この作品の持つ主人公のユリアという女の子の黒く染まった冒険にあらわれる、思春期の女の子とアウトローの表現が鋭い。女の子の感情論と裏社会に生きる住民との不気味なコミュニケーションが成立しているのも、人間の奥深くに潜む心の闇が共感しあっているわけである。冒頭でイメージするのはかつて神戸で起きた児童殺傷事件であるが、これがもし家族内で起こるとすれば一大事であるのは当然であるが、ユリアという女の子を一例をあげることにより、現代社会においてのさらなる警告としても感じ取ることができる。