あーとこみにてぃー@藤岡宣麗

マルチクリエイターの藤岡宣麗による作品発表です。皆様に楽しんでいただけるような投稿にしていきたいと思ってます。

bungaku museum 1 横山秀夫

横山秀夫クライマーズ・ハイ」  (文春文庫)       

 

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

 

 

クライマーズ                           

 日航機の御巣鷹山墜落事故という大惨事、悲しみを伝える報道が全国に流れた。テレビや映画にもなったことのあるこの作品では、悠木という男が主人公であるが、原作者である横山秀夫氏が実際にジャーナリズムの世界を経験している。マスコミ志願希望にとっての持つ憧れの姿と、罵声が飛び交う原稿記事の編集構成を巡るどろどろとした裏側を同時に書くことにより、現実におけるマスコミ業界がいかに過酷であり、人という醜さを持った面も強いかということを赤裸々に描いて伝えている。もし本気でマスコミ業界を希望するのであれば、怒号の一つや二つは気にすることはなく、勇気をもって読者に伝えるべきことを伝えることを意識すべきであろう。作者は実際の肌に感じた経験をもとに描いた本格派ジャーナリズムのノンフィクション小説である。編集部という特異な世界において、大事件における全権デスクの立場、仕事場を出ても孤独でいるときの悠木から伺える心情には、彼にとって心の葛藤はとてもすさまじい。自らの今日まで培ってきたジャーナリスト魂が彼の気持ちを強くさせたのには間違いない。遺族の言葉を自らの立場を犠牲にしてまでという部分では、読み手の立場にとっても、何故か心を震え立たせるものを感じさせる。後半に登場する望月彩子という女性が悠木のもとに直接持ち込んだ文章をレポート用紙に記しており、目にしたときの彼は内心、嗚咽していたであろう。たった最後の四行、されど四行であり、意味が大きく変わるものである。彼の内心は、遺族への気持ちを直接訴える機会ができたという使命感の強さゆえのものであろうか、亮太への多大なるお詫びを大きく感じたものであろうか、という気持ちを感じる。彼女の気持ちに強く答えるほどの彼に映るジャーナリズムは非常に燃えていたものであったと言えよう。全体を通して、彼のキャラクター性や現場独特の雰囲気としては彼の男気はすさまじく感じる。普段におけるマスコミ業界の実態を半ば訴えているようにも見える。同氏がこの作品に自らの想いを託したのは、自らの新聞記者経験ではとても遣り切れない気持ちの大きさがいかなるものかが文章の中でもすさまじく感じる。登場人物の会話のやりとりはとても激しいものであるというのが、その一つである。新聞の一面や手紙を思わせる文章の作りにしても、実際の記事であるという印象と同時に、人物の感情があふれだすかのように描いているように思った。また、今日におけるマスコミという存在について、腐敗しきっているという警告も訴えているように感じる。現在はフリーライターとして活躍する横山秀夫氏はジャーナリズムを活かした作品を次々と生んでおり、現実における社会に対する意気込みは健在であろうといってもいいかもしれない。

人物・悠木和雅 安西 望月彩子 /CLIMBER,S HIGH