あーとこみにてぃー@藤岡宣麗

マルチクリエイターの藤岡宣麗による作品発表です。皆様に楽しんでいただけるような投稿にしていきたいと思ってます。

bungaku museum 1 リシャール=コラス

 リシャール・コラス「紗綾」/ポプラ社

 

紗綾―SAYA

紗綾―SAYA

 

 

 作者はかの一流名門ブランドであるココ・シャネルの日本法人社長であり、和訳もすべて本人によるものである。翻訳の一文ずつがとても丁寧に、仕上がっているのには驚きである。主人公の神脇と妻の香里、ヒロインである紗綾の三者からの視点を用いることにより、物語の流れが実際に感じているかのような描写である三者による想いをとても巧みに描くことと、背景となった実在する百貨店を加えることで、物語のムードを引き立たせている上、コラス氏が感じたとされる日本国内の深刻な社会問題を作品に活かし、鋭く表現している。作者の母国フランスで培った感性がこの作品に生きる三人の個性に活かされ、日本の闇が相交じり、とても繊細で愛らしさの印象を持つことができる。特に見どころなのが、ヒロインである紗綾の、どことないあどけなさや艶やかさが、コラス氏にとっての美しい日本人女性をイメージできる。作者の想像性が決して個人による勝手と安直な主観ではなく、著者自身が接客業において、これまで出会ってきたであろう数多くの日本人女性客の姿を仕事経験を通し、この作品に反映させることにより、決して表面上ではない、リアリティーを持たせた著者の表現した美しいあどけない日本人女性像ができたのである。また、作品に出てくる妻・香里の人物像も同じようにもう一つ存在する日本人女性の日常風景をシュールに表現し、夫の神脇との関係を物語の場面ごとに、リストラや紗綾との関係といった夫の神脇に両親の痛みを用い微妙な関係に立たせることにより、夫婦間の距離感をうまく表現している。後半では神脇の立場、紗綾の立場と、二人の想いを強く表現している。著者によるカタルシスな表現が、日本人の持つ儚さを活かし、桜の花の様につぼみから、花びらが咲き、散っていくようにイメージでき、鋭い表現力を感じさせる。

 人物・神脇 香里 紗綾/SA-YA