あーとこみにてぃー@藤岡宣麗

マルチクリエイターの藤岡宣麗による作品発表です。皆様に楽しんでいただけるような投稿にしていきたいと思ってます。

bungaku museum 1 氷室冴子

氷室冴子海がきこえる」(徳間文庫)

 

海がきこえる (徳間文庫)

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海がきこえる [DVD]

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海がきこえる

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僕が好きなひとへ―海がきこえるより
 

 

 大学生活を送っていた杜崎拓がかつての高校時代に出会った、武藤里伽子という女の子を想う気持ちがとても強いというものには無理もない。彼女に対する罪悪感により、会えないままとなれば、彼にとっての気持ちが余計に強くなってゆくばかりである。武藤里伽子という少女を例とした、女性の思春期を純粋に描いている。同時に、杜崎拓という少年の心理をちょっぴり切ない罪悪感という観点におくことで、彼女への想いを強める役割は大きい。彼女との出会いが、彼にとって非常に大きな存在感を持っており、やがては思い出と変わっていくのである。また、彼女にとっては彼の存在が心の支えとなっていったといえよう。彼女の姿というものには非常に純粋な人柄であるもの、物事に対する不器用さや無頓着もこの作品の中から現れるが、決して相手を傷つけるとか、振り回すとかいう考えを持っているわけでない。両親が離婚し、母を知らず、同時に父親には長く会っていなかった面と東京に対する恋しさが彼女に対する大きな傷になってしまったといえよう。逆に、傷ついた彼女に拓が共にすることにより、彼女の傷が少しでも言えたというものではなかろうか。人懐っこさの感じる彼女の想いというものには、人並みでは計り知れないものであるから。だが、学校側における気まずさが起こり、故に彼は自らの作ってしまった罪で墓穴を掘る羽目となってしまう。それでも、彼女は彼と再会するもの、これまでの気持ちを覆すことはない。同時に大人になっていった彼女の姿というものにはこれまでの考え方に背を向けることのない洗練とした気持ちでいるように感じる。成長した彼女を少なくとも、杜崎拓という「彼」の存在があってではなかろうか。杜崎拓と武藤里伽子、二人の出会いはこれからも続くと言っていいであろう。

 初めて氷室冴子氏の小説に手を取った。ただ、氷室氏はすでに他界しており、大変残念である。氷室氏の残したものの存在は非常に大きい。同氏の作品がかの有名映画監督である宮崎駿氏のスタジオ・ジブリへのアニメ化へと抜擢されるまでに至ったわけである。遺作となった「海がきこえる」は男女の持つ思春期や想いというものが純粋な形で表現されているか文章の中で感じ取ることが出来る。そう、キャラクター個々にあらわれる、あふれるくらいの気持ちが。